地域のミューズを発掘するメディア
これまでの歩み
大学院を卒業後にメーカーの本社デザイン部に入社し、商品デザインからパッケージ、販促などのデザイン業務に携わっていました。そして入社3年目に、プロモーション部門強化のため東京支店へ異動しました。
同じ部署にデザイナーは私1人の状態で、50万部発行する会員誌を担当していました。
それまでエディトリアルデザインに関する経験は無く、独学で学びながら作っていました。
この時の経験が、後のグラフィックデザイナーへの道を切り開くことになります。
2010年に結婚する際、主人から「今度中国に転勤になるから」と言われ、覚悟のうえで結婚しました。
そして2011年3月の東日本大震災のすぐ後に、主人の転勤に伴って中国上海へ行きました。
上海はニューヨークに次いで日本人の多い街なので、そんなに生活に苦労はしないだろうと思っていたら、言葉は通じない、知り合いは少ない、現地の人の習慣も合わず、毎日生活するだけでも大変な毎日でした。
震災の後だったこともあり、災害に怯え毎日精神的に追い込まれていました。今考えると本当にきつかったです。
しばらくそんな日々を過ごしていると知り合いから、日本人向けフリーペーパーを作る仕事を紹介してもらい、手伝うことになりました。
取材のために1人でタクシーに乗ったり、中国人スタッフと話すことで、家にこもりがちだった中国生活が一気に外に出る生活に変わりました。
知り合いも増えて徐々に現地に慣れてきていました。
主人が会社を辞め独立するタイミングで一緒に福岡に帰ってきて、夫婦でデザイン事務所を立ち上げました。
2人とも大学を卒業して以来福岡から離れていたので、仲間を増やしたいと思い、福岡市がスタートアップ企業に向けて実施していたイノベーションスタジオというプログラムに参加しました。その時のプログラムが、「都市に隠れた資源をデザインする」というテーマの講座だったということも理由の1つです。
そのプログラム参加時から、廃材で何かできたらいいな、というのは思っていました。
理由は主に2つで、1つは、私の父が、廃材を使ったアップサイクル商品のブランドを立ち上げていたことです。もう20年以上前のことなので、当時は「エコ」という言葉が出てきた頃でしたが、限られた廃材という素材を使って、安定した商品を生み出すことの難しさや、コストなどの課題もありました。日本に帰ってくるタイミングでそれを引き継ぎたいと思っていましたが、同じやり方ではうまくいかないと思い、プログラムで出会った方にも色々とアドバイスをいただきました。
もう1つは、夫の仕事上、木の廃材や端材が手に入りやすかったことです。はじめは自分たちでDIYに使うために木材の端材をもらっていましたが、同じように欲しい方も多いのではないかと考えました。
最終的にはDIYをやる方に廃材を提供する方向性が定まり、プログラムで出会った、建築/デザイン/インテリアといった仕事に従事している仲間6人でMATERIAL MARKETを立ち上げました。これが2016年ですね。
はじめはポップアップショップのような形でやってみて手応えを掴めたので、2016年に福岡市中央区清川に、3社で共同運営していたショップをオープンしました。
ゆっくり話をしながら接客したいという思いから、現在はショップを福岡市西区西浦という静かなエリアに移転しています。
余談ですが、ありがたいことに中国からのお客さまもいらっしゃるので、接客において中国での生活が生きています。
ショップに並ぶ多様な廃材たち
久保睦さんの未来地図
01
福岡市西区西浦で廃材のセレクトショップ「MATERIAL MARKET」を運営しています。工場などから出る端材や廃材の中から「素材」として価値のあるものをセレクト、仕入れ、販売しています。
6年前ほど前まで、福岡市中央区の清川というエリアでスペースをシェアしてショップを運営していました。天神エリアからも近く、通りすがりのお客さまもリピートのお客さまもたくさん立ち寄ってくださっていたのですが、ゆっくりお話しする時間がなく、短時間の接客で終わってしまっていました。
私たちの扱っている商品は、モノが持つストーリーが多様で、ゆっくりお話ししながら理解していただく必要のあるものばかりです。
例えば陶磁器を焼く際に器の土台となる「ハマ」と呼ばれる素材があります。ネットで調べてもあまり情報が出てこないのですが、焼き物の土台として一度使用されると、使い捨てになってしまう窯道具です。繰り返し使えるハマもありますがコストが合わず、使い捨てのハマを使われる窯元さんが多いようです。
他にも、家具やカトラリーを作る過程で出た木の端材、印刷所から出た紙の端材、新しい生活様式で使わなくなってしまった伝統工芸品のパーツなど、今まで表舞台に出ることなく私たちの知らないところでひっそりと消えていた「素材」たちを販売しています。
できればお一人お一人ともっとお話しし、ストーリーを伝えることができるショップを目指したいと思ったときに、都心部から離れることを決意しました。
今ショップのある西区西浦エリアは、小さな漁港のある静かな町です。ショップに来てくださる方は9割以上がうちのショップを目的に来てくださるので、ご来店いただいたお客さまとはじっくりお話ができるようになりました。
また、モノが持つストーリーはお伝えできますが、用途はこちらからは指定せずお客さまに価値や使い方を見出していただくように心がけています。
リピーターさんに用途をお聞きすると、華道家さんが演出の一部として博多曲物の端材を使われたり、三線を作られている方が部品の一部として黒檀の端材を使われたり、「なるほど、そんな使い方があったんだ」と驚くことも多いですね。
焼き物を作るときに使われていた窯道具のハマ(下)と、ハマに釉薬を塗って再度焼くことでお皿として使えるようアップサイクルされた商品(上)
02
活動の原動力となっているのは、私たちの活動を理解して応援してくださる方々です。
素材を購入してくださった方がSNSや知り合いに紹介してくださったり、応援してくださっている方が私たちの知らないところで私たちのことを紹介してくださったり。
みなさんの賛同や応援が本当に力になっています。
また、素材を提供してくださっているメーカーさん、職人さんの方々も活動の原動力になります。私たちの本業はデザインなので、ものを作ってくださる方々を心から尊敬しています。
ものづくりを支えてくださっている皆さんが、廃棄負担などを感じられているのであれば、少しでもお力になりたいという気持ちで活動を続けています。
03
廃材が何かの素材やプロダクトに変わったときを「#廃材じゃなくなる日」という言葉にしていて、それがもっと当たり前になる世界を目指して活動しています。
具体的には、私たち以外にも廃材のセレクトショップが色々な地域にあり、各地の廃材が素材として生まれ変わっている世界ですね。様々な地域によってたくさんの素材が存在していると思います。
例えば、木材でいうと九州にはクスノキが自生していますが北海道にはありません。逆に北海道には白樺の木がありますが九州には自生していません。
そんな地域によって見たこともない個性豊かな素材が、いろんな地域で手に取ることができる。そして、様々なクリエーターが新たなプロダクトや作品を生み出すような世界をぜひ実現してみたいと思っています。
それぞれが持つストーリーも様々
久保睦さんに8のQuestions!
Q1
これはいくつもありますね。
1つ目は、「MATERIAL MARKET」の立ち上げ1年目のときに、東京銀座三越でのpopupイベントに参加できたことです。
100円で販売する予定だった商品を、スタッフが間違えて1,000円で販売してしまったのですが、それでもお買い上げいただけたことに驚きましたし、モノの価値を改めて考えるきっかけにもなりました。
2つ目は、子供の頃からずっと愛用している無印良品さんのメディアに取材いただけたことです。
その後、福岡の無印良品さん店舗でのpopupイベントの開催にも至りました。
3つ目は、大阪梅田阪急であったイベントで、過去最高売上を達成したことです。
ボランティアでやっているとも思われていたこの活動が、ちゃんとビジネスとしてやっていけると確信できました。
4つ目は大阪関西万博に出店したことです。
Q2
最近、大阪にすごく縁があります。
大阪関西万博に出店させてもらったり、大阪の展示会にお声がけしてもらったり。
大阪の人は福岡の人よりもおおらかで自由な感じがします。
私は真面目な性格なので、ちょっと憧れのようなものがあるのかもしれません。
これからも、大阪の人たちと面白いことをやって交流を深めたいと思っています。
Q3
長所は、この人のこういう言動良いな、と思ったらすぐ真似してしまう癖があります。長所なのかどうかわかりませんが、そうやって周りの人に影響を受けながら良い具合に自分自身が成長できているように感じます。影響を受けやすいので、地方に行ったときには方言がすぐ移ってしまいます。
短所は、とにかく飽き性です。すぐに飽きるので、趣味も続きません。
あとは、せっかち。ラーメン3分も待てないのでお湯をかけて15秒で食べます。エレベーターも待てないので、ボタンをカチカチ押します。笑
Q4
2024年10月、MATERIAL MARKETの10年目を記念して初めて単独の展示販売会を行いました。福岡市内から少し離れたところでやったのですが、予想以上にたくさんの方が来てくれて、感動しました。こんなにたくさんの方が知ってくださってて、そして応援してくださっているんだな、続けてきてよかった、と心から思いました。
Q5
無駄にお金を使う、時間を使うことが苦手です。
でも最近は、無駄のように見えて無駄ではない、判断の難しいところに大切なことがあることも分かってきました。
なので「これは無駄だから」となんでも切り捨てるのはやめようと思っています。
Q6
5点ですね。今は週7日のうち1日をMATERIAL MARKETにコミットしていますが、まだまだやりたいことがたくさんあって、やれていないこともたくさんあります。
Q7
MATERIAL MARKETの扱う廃材が何かの素材やプロダクトに変わったとき=「#廃材じゃなくなる日」がもっと当たり前になることですね。
Q8
動物が好きなので、動物を支えることができる仕事がしたいです。
Profile
プロフィール
久保睦/Mutsumi Kubo
KUBO DESIGN STUDIO デザイナー/MATERIAL MARKET
福岡県出身。九州産業大学芸術学部デザイン学科卒業後、株式会社タカギに入社。2011年結婚を機に退社後、中国上海で日本人向けフリーペーパーを発行する会社で制作のお手伝いをしながら2015年独立。KUBO DESIGN STUDIOを開業。同年に、廃材を素材として販売するMATERIAL MARKETのプロジェクトをスタート。
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